【重点研究】 
 1)生産と消費の連携による自給飼料主体型健全牛肉生産技術の開発
  資源循環による健全で高品質な牛肉生産を図るため、牧草や飼料作物、
  放牧による自給飼料100%の牛肉生産システムの開発。
 2)地域資源利用による環境保全型家畜生産に関する研究
  地域に賦存する繊維質資源や水産資源の飼・肥料化利用技術の研究。
 3)自給飼料100%牛肉の安全性・品質評価
  重金属の測定、機能性成分などの評価


【学外研究機関との共同研究】 
 1)農畜水産系未利用資源の資源化利用技術の開発(民間との共同研究)
  水産加工副産物および家畜糞尿のエネルギー・肥料利用を図るための施設、
  作業体系及び耕地還元 による土壌生産力の向上、牧草・飼料作物の生産性・
  品質向上に関する研究。
 2)地域資源利用による家畜生産に関する研究(学外共同研究)
  エコロジカル畜産先進国との情報交換及び相互交流の堆進。        
 3)水産資源を用いた家畜生体代謝による高機能性食品基材等の開発に関する
  研究(学外研究機関、民間との共同研究)



【研究室スタッフ】

寳示戸 雅之
(ほうじと まさゆき)(教授)
専門分野:草地土壌学
 研究概要:
 合理的な食料生産と環境保全の接点を解きほぐす視点の研究を進めています。FSC研究室(生物資源循環学研究室)の研究テーマとしては、たとえば次のような領域が考えられます。このほかにも地球温暖化ガスを対象とした解析も実施できます。
 
 1)八雲牧場の養分フロー解析
 完全な有機的管理を行っている八雲牧場で、肉牛生産をするときに、窒素、リン、カリ、微量要 素などの養分が、土壌、飼料、牛体、排泄物を介して多くが循環していますが、その実態を計測することが重要なテーマとなります。

 2)八雲牧場の環境保全リスク解析
 有機的管理を実践する八雲牧場にも環境保全上のリスクはいくつも存在します。そのひとつひとつを実測し、対策を考えることも重要です。

 3)十和田・八雲における大気沈着量の解析
 乾性沈着、湿性沈着の実測を行い、上記養分フロー解析に利用します。

畔柳 正(くろやなぎ ただし)(准教授)
専門分野:家畜飼育学
 研究概要:
 1)未利用地(耕作放棄地、林地)を利用した飼料自給型牛肉生産技術の実証的研究  
 
 2)日本短角種の品種特性を生かした飼育技術の普及、啓発

小笠原 英毅(おがさわら ひでき)(助教)
専門分野:解剖・組織学、家畜生理学
 研究概要:
自給粗飼料生産・肥育おける赤肉産生機構の解明を目的としています。北里八雲 牛の販売業務も担当しているので流通・消費に関わることも研究テーマにしています。以下の テーマを設定していますが、幅広く対応できますので気軽にお尋ねください。

 1) 放牧など自給粗飼料のみで生産する肉用牛の栄養・生理と骨格筋形成機構の解明
 骨格筋は動物の状態によって様々な変動をしています。例えばマラソン選手には収縮速度が 遅く、疲労耐性が強いT型筋線維の割合が高くなり、短距離走者には疲れやすいが、瞬発性が高いU型筋線維が高くなります。牛においては放牧飼養をすると骨格筋を構成する筋線維に小型の脂肪滴が蓄積します(TD型筋線維が増加)。この特徴的な筋線維の謎を研究しています。一方で骨格筋を形成する因子であるmyostatin、MyoD、myogenin、Myf5の発現動態と筋 収縮・肥大のエネルギー源である骨格筋細胞へのグリコーゲンおよび脂質の栄養素取り込み 機構や代謝様式も解析しています。

 2) 放牧など自給粗飼料のみに適する品種、日本短角種とサレール種の交雑種の特性解析
 日本短角種とサレール種との交雑種は、同じ飼養管理下で日本短角種より約1.5倍、増体が高いことが我々の研究で明らかになっています。なぜ、増体が高いのか、家畜飼養学的(採食量や行動量の解析など)、生理学的(血液分析など)、組織学的(各種染色など)、分子生物学的手法(遺伝子発現解析など)を用いて解析しています。

 3) 6ヶ月間自然哺乳した子牛の特性解析〜消化管構造と免疫獲得機構〜
 一般的にルーメンの発達は粗飼料を採食することによる物理的刺激と、配合および穀物飼料 給与による化学的刺激によって増長されることが知られています。また、哺乳期間が長期化するとルーメンの発達が抑制され、育成・肥育期の成長に負の影響を与えるとされ、早期離乳が推奨されます。我々の研究では6ヶ月の哺乳と粗飼料のみで飼養した牛の第一胃では、慣行飼養する肉牛と第一胃の発達に違いがないこと(むしろ良い)が分かっています。さらに、放牧地で6ヶ月間、自然哺乳で飼養する牛は下痢症などの疾患にもなりにくいことが、実学的に分 かっていますが、生体内で何がおきているか、これらのなぜ?は研究が進んでいない状態です。

 4) 赤身牛肉の栄養成分と官能評価
 放牧など自給粗飼料のみで生産される肉用牛の牛肉の栄養成分はいいの?わるいの?おいしいの?ということを研究しています。今までの成果では霜降り牛肉と比較すると脂質含量は1/5でヘルシーであること、放牧時期の出荷と舎飼い時期の出荷を比較すると放牧出荷のほうがさらにヘルシー、だけど硬い(よく動いているため)、官能試験をすると出荷時期が異なることが牛肉の「おいしさ」に与える影響が少ないこと、が分かっています。まだまだ分からないことが多いです。 

環境保全型畜産研究部門(八雲牧場)
 八雲牧場は1976年に開設され、1994年から自給飼料100%給与による牛肉を生産している。牧場の総面積は約370haあり、採草地100ha、放牧地120ha、森林150haで、日本短角種、日本短角種とサレールの交雑種および日本短角種とその他の交雑種を主体に構成されている。また小頭数ではあるがアバディーンアンガス、ヘレフォード、シャロレーなどの純粋肉用種牛を飼養し総頭数で約250頭飼育している。
 約150haの森林はナラ、イタヤ、カバなどの雑木林と、トドマツ、アカエゾマツなどの針葉樹林で、1997から2000年度にトドマツ、アカエゾマツ、ミズナラなどを36.1haの無立木地に植林し下草刈事業も行った。


 ここでは広大な敷地を有する立地条件を生かし「資源循環を重視した自給飼料による環境保全型牛肉生産」を基本方針に、夏は放牧主体、冬は貯蔵粗飼料で飼育し、家畜の排泄物は完熟堆肥として草地に還元する資源循環型牛肉生産の実践研究を行っている。

 2003年度には、八雲牧場の生産物に対して商標登録も取得しました。また同年から全ての農薬を、2005年からは化学肥料の施用も完全に中止し、人の健康と動物の福祉、環境との調和を考慮した現在の基盤を作りあげた。この頃から消費者の皆様より安全・安心な牛肉であると評価頂けるようになり、同大学病院の患者用食材としての利用も始まりました。また、現在では北里大学の農医連携の一端を担うまでとなりました。

 
2008年度には、有機畜産物JAS認証の取得に向け準備を始めました。これまで八雲牧場で取り組んできた牛肉生産方式が有機JAS認定にほぼ適合していたため、検査において改善事項もほとんど無く2009年10月1日、有機畜産物生産行程管理者として認定され、「有機畜産物JAS認証」を取得しました。

 2010年5月には「放牧畜産実践牧場」「放牧子牛生産基準」「放牧肥育生産基準」「放牧牛肉生産基準」の認証を受け、消費者の皆様に理解の得られる環境で肉牛生産を行っています。

 

実習教育について
 実習は十和田農場内の施設、家畜および圃場を利用した動物飼育管理学実習と学外の八雲牧場で実施される牧場実習に分けられる。平常時間における動物飼育管理学実習は動物資源科学科2年生前期(2009年度では毎週火曜日3、4時限)の必修科目で動物飼育管理学研究室と動物行動学研究室が担当して行われている。ここでは家畜に初めて触れる学生が多いため、畜産学への導入として家畜の品種・用途・接し方・扱い方、また家畜の飼料生産を実体験させることで「土−草−家畜−生産物−人の利用」という物質(エネルギー)の流れを理解させることを目的に行っている。   
 動物資源科学科2年生の牧場実習は、学生は北海道の八雲牧場に宿泊して行う。この八雲牧場実習は夏期休暇中に4泊5日の日程で実施される。内容は肉牛、酪農および草地・施設の3つに分けて行われ、牧場内の作業やそれらに用いる機械・管理器具等の名称・用途および取り扱いを通して、牧場での作業体系を学ぶ。この他に動物資源科学科の学外実習(インターンシップ)や動物資源科学科および生物生産環境学科の学生で海外研修(国際農業者交流協会派遣、IFFA派遣)のための実習を希望する場合、3週間以上の専門的コースが設けられている。